永遠に「死と再生」を繰り返す存在。
彼女の存在そのものは紀元前からあったとされている。
彼女はいくたび破壊されようと、その記憶、性格、経験などは水晶やマイクロチップなどの媒体に残されたまま地中深くに眠り、また、その媒体を何者かが発見するたびに、異なる肉体を得て蘇生を繰り返した。
戦闘用の機械、それ以上でも以下でもない彼女にとって、人間のパートナーは不可欠な存在である。
命令を遂行する能力にかけて彼女以上に優秀な存在はないが、行動に選択肢が発生した場合、ただの機械である彼女は自らの意志でそれを取捨選択する能力に欠けている。
予測不可能な事態に直面した際、行動を共にする人間が選択に方向性を与えてやる必要がある…それが正しい判断であれ、誤った選択であれ。
やがて彼女はパートナーたる人間が死亡するか、自らが破壊されることで役目を終える。
彼女の存在そのものと言える媒体には記憶が残り続けている。
しかし再起動する際、その記憶は封印され、まるでたったいま母親の胎内から出てきたかのように、こう呟くのだ。
「ワタシの名前はHEL・00、コードネーム…リア。オマエがワタシのパートナーか」
そして彼女は目覚めるたび、大地に立つたび、人を殺すたび、パートナーを失うたび、自らが破壊されるたび…「懐かしい」と感じるのだ。
昔、同じようなことを経験したような気が…こんな風景を、こんな光景を目にしたことがあるような気がする、と。
彼女の心の中は、常に「悲しみ」で満ちている。
理由のない、言い様のない、深い悲しみ。
いつの時代にも彼女は存在し、彼女は何度も再生を繰り返しながら歴史を見てきた。
そして、彼女に感情が…魂が存在することを、誰も、彼女自身すらも知らない。
魂は誰にも見せることができない。ゆえに、存在を証明することもできない。
誰も、彼女の魂の存在に気づくことはない。
そのはずだった。あの日までは。
「うおおおおおおおっ!?」
あまりに突然の出来事に、クレイドは思わず仰天してその場に引っくり返りそうになってしまった。
とある建物の地下に存在する、何かの研究施設と思われる場所。
その最奥には、培養液に満たされた巨大なシリンダーが幾つも陳列されていた。
「まったく、悪趣味極まりないぜ」
デイビスがそう呟いたのは、クレイドが声を上げる数秒前のことである。
シリンダーの中には実験体と思われる人間(と思われる物体)が収容されており、そのほとんど、いやすべてが肉体が損壊した失敗作だった。
最初からその状態だったのか、それとも経年劣化によるものなのかは定かではない。
目玉が飛び出し、内蔵があちこちからはみ出ているそれらを嫌々ながらも写真に収めながら、クレイドは言った。
「しゃーねぇ、目ぼしい資料だけ持ってさっさとズラかろうか」
この研究所の成果そのものは、クレイドにとって持ち帰るにはまったく値しないものだった。
そう、ただ一体を除いては。
クレイドが資料を取り上げようと、最後のシリンダーの前を通りがかったとき。
培養液がシリンダーに接続されたチューブから排出され、ガラス窓が爆発によって吹き飛ばされる。
そして、その場で尻もちをついたクレイドの前に…「彼女」が姿を現わした。
「ワタシの名前はHEL・00、コードネーム、リア。オマエが…ワタシのパートナーか」
「何者だ、こいつ」
モノフィラメント・ナイフを抜いたデイビスが警戒する。
クレイドは立ち上がると、どうやら敵ではないらしいリアに向かって言った。
「どうも面倒なことになっちまったようだなァ。伴侶になりたいってなら反対はしないけど」
「アホなこと言ってる場合か」
デイビスが呆れてため息をついたとき、不意にリアが天井を見つめて言った。
「上階から反応あり。武装した人間が複数名こちらへ向かっている」
「ヤバそう。味方が少ないと、こういうとき敵か味方かすぐわかるってのは利点だよな」
「お前…言ってて悲しくないか?」
「こう見えて友達は選ぶ主義なのよね」
そう言うと、クレイドはコートから銃を抜いて装弾を確かめた。
ここに辿りつくまでにかなりの弾を消費したクレイドにとって、できればこれ以上の交戦は避けたいところだった。
そのとき、ふとリアが呟く。
「銃があるのか?」
「ああ」
「一つ貸してくれ」
いきなりそう言われてもなあ、とクレイドは思いつつ、しばらくためらってから拳銃を一挺リアに投げ渡した。それをリアは特に焦ることもなくキャッチする。
その銃は5・7ミリ口径のシルバーチップ弾を使用する、ちょっと特殊な代物だった。所持していたのはあくまでクレイドの趣味だったが。
簡単に信用していいのか、銃を渡した途端に撃たれたらどうするんだ…そう考えるデイビスが苛立たしげに言う。
「ところでこいつ、何なんだ?」
「後回し。敵じゃないなら素性を勘ぐるのなんか後でいいでショ」
「これだ。ったく女と見ればアンドロイドだろうが見境ねぇもんな」
三人は部屋を出ると、警戒しながら階段を上がっていく。
しばらくすると、ヘルメットと防弾仕様の戦闘服で完全武装した兵士に出くわした。
クレイドとデイビスが反応するより早く、リアが銃弾を三発、兵士の心臓に向けて瞬時に叩きこんだ。ほとんど同時に三個の薬莢が地面に落ちるのを見て、デイビスが呟く。
「おい、あの銃フルオート機構なんかくっつけたっけ?お前」
「いや~フツーにセミオートですヨ?まだそれほど手ぇ入れてないからトリガーも結構固かったと思うし」
「おっかねえ娘っ子だな、ありゃあ」
そう言うと、デイビスは壁にもたれるようにして息絶えた兵士の身体をまさぐった。
破裂した心臓からみるみるうちに溢れ出す血が、戦闘服を瞬く間に真紅に染めていくのが見える。
「おい、こいつ…ノヴァテクの兵隊だぜ。メガコーポの私兵がなんでこんな僻地にまで出張ってきてやがる」
「うひー、本格的にマズイな。さっさとトンズラしないと」
しばらく...